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# 現代哲学史#2-1 実証主義的傾向:フランス(実証主義の設立と実証主義的社会学) ## 実証主義(positivisme) 19世紀からヘーゲル哲学(もしくはドイツ観念論全体)における、思弁的・形而上学的性質に対する反発による反形而上学的傾向が高まった。 そして、当時の自然科学の成功という背景もあり、その結果、反形而上学を標榜し実証的な事実のみ認めるという実証主義的傾向が強くなった。 この傾向の結果、社会学、心理学、生物学といった科学が誕生した。 ドイツにおける実証主義的傾向はフォイエルバッハなどのヘーゲル左派において現れるが、フランスではこれに先立って1830年代からすでにコントによる実証主義の流れが始まっていた。 フランスにはもともともコンディヤックの感覚論を受けつぐ潮流、例えば、 `トラシイ(Antoine Destutt de Tracy, 1754–1836)`、 `カバニス(Pierre Jean Georges Cabanis, 1757–1808)`の思想 があったため、もともと実証主義が栄える土壌があったといえる(\*1)。 コントがもたらした実証主義的傾向は様々な方向に展開した。そして、この傾向はイギリスにも波及し、スペンサーの進化論哲学、ミルの功利主義に影響えた。 ## フランスの実証主義的傾向 実証主義的傾向はコントの実証主義に端を発する。実証主義自体は学派を形成することはなかったが、その傾向は広範囲にわたって影響を与える。フランスにおいては、デュルケームや`レヴィ-ブルュール(Lucien Lévy-Bruhl, 1857-1939)`らの実証的社会学に受け継がれた。 --- ### コント(Isidore Auguste Marie François Xavier Comte, 1798-1857) コントは実証主義の原点といわれる人物である。彼の実在論もしくは`実在哲学(philosophie positive)`は、人間の知識における三つの段階説、`三状態の法則(loi des trois etats)`、において説明される。 1. 第一の段階(神学的段階):この原初的な段階における人間は、あらゆる現象の原因を超自然的なもの、つまり、神に求める。これは充分な自然の観察が行えず、その不十分な観測から想像を働かせた結果生み出される。 2. 第二の段階(形而上学的段階):現象の原因を説明するのに、神という人的存在者からより抽象的な実在、つまり、形而上学へと移行する。この段階においてもまだ自然の観測が充分に行えていないが、神学的段階においては想像力によって現象の原因を帰結したのに対し、ここにおいては推論(理性)において導かれる。推論能力を用いるところが先のものより優れており、次の段階への橋渡しとなる。 3. 第三の段階(実証的段階):自然現象の観測を詳細に行うことによって、科学は次の段階へ進む。この段階において人間は、自然現象において超越的、絶対的な原因の探求をやめ、現象そのもののを観測しその観測結果(経験的事実)から事実の恒常的関係を帰納的に推論する。 コントによると、この実証主義は経験主義と区別される。経験主義は観測結果の収集だけに終始するが実証主義はこの観測結果から推論することによって自然における法則を見出す。この法則とはヒュームが批判した必然的なものとして捉えるのではなく、恒常的関係そのままとして捉える。そのため、この法則は相対的である。しかし、人間の諸組織は皆一様であるという前提において、相対性は不確実性を意味しないとする。これは`先見せんがために見る(voir pour prevoir)`、`備えるために予見すべく知る(savoir pour prevoir afin de pourvoir)`といったテーゼにおいてまとめられる。 コントによると各科学はこの三段階をそれぞれ異なった速度で経過する。科学の分野によって発展速度に違いがあるのは、それぞれが取り扱う対象の複雑さに依存する。複雑な学問は単純な対象をもつ学問の後を追う形となる。例えば、数学は最も単純な観測対象をもつため、最も早く実証的段階に到達し、その後を天文学、物理学などが追う。しかし、化学、生物となると、徐々にその分野の対象が複雑になるため実証段階に到達するのが遅れる(遅れた)。そして、社会学は、まだ第三段階に到達していなかったため、これも実証の段階に推し進める必要性があるとし実証科学としての`社会学(Sociologie)`を設立する(コントは社会学の創始者とされSociologieは彼の造語)。
  • 著作
  • 『実証哲学講義』Cours de Philosophie positive (1830)
--- ### ギヨー(Jean-Marie Guyau, 1854-1888) 彼はフランスのニーチェと呼ばれる、実証主義者である。彼は実証主義を倫理学に適用する。それによると、倫理においても、実証することのできない超越論的な要素は排斥し、実証的事実のみ考慮し倫理の理論を構築すべきだと考えた。
  • 著作
  • 『義務と制裁無き道徳』Esquisse d'une morale sans obligation ni sanction (1885)
--- ### デュルケーム(Émile Durkheim, 1858-1917) コントの実証的社会主義はデュルケームに受け継がれる。デュルケームは合理主義者のいうアプリオリ性を「社会」と解釈する。なぜなら、アプリオリ性と社会は様々な共通点をもつ。例えば、個体は可変であるのに対し社会は永続的であり、社会は個体において超越的であると同時に内在的である。個人が社会を作り出すわけではないが、社会は一般的な規則によって個人に対する強制力を有する。また、社会規範・道徳は客観的かつ主観的な相のもと現れる。というのも、道徳はある特定の社会においては明確に限定され、一般的かつ客観的なもので、アプリオリに個人を規定する。しかし、それは各個人における道徳意識は異なっているため、主観的であるともいえる(無意識において社会規範・道徳はアプリオリに個人を規定し、有意識において個人は道徳に対し相対的な態度をとる)。道徳を考察する上で主観的な相のもとに現れる道徳は十分ではなく、客観的な相のもとに現れる道徳を考察する必要がある。デュルケームはこのような、個人に内在する一般的な社会規範というアプリオリ性を実証的に関連づけられると考える。
  • 著作
  • 『社会学と哲学』Sociologie et philosophie (1924)
  • 『自殺論』Le Suicide (1897)
--- ### タルド(Jean-Gabriel de Tarde, 1843-1904) 彼はデュルケームが考える社会学を実証学的、機械論的に考察するという立場と反対に、社会学を心理学的に構成した。 --- ## 注
  • \*1. フランスにおいて実証主義と対立する学派で`観念学派(ideologistes)`があった。この学派に属する哲学者で`ビラン(Maine de Biran, 1766-1824)`がいる。また、その弟子で折衷主義の`クーザン(Victor Cousin, 1792-1867)`などである。これは、ベルクソンなどを導く思想の流れである。
--- ## 参考文献 1. 岩崎武雄 (著)、『西洋哲学史』、有斐閣、1975 1. 岩崎允胤ほか (編集)、『西洋哲学史概説』、有斐閣、1986 1. 岡崎文明ほか (著)、『西洋哲学史 理性の運命と可能性』、講談社、1997 1. 杖下隆英ほか (編集)、『テキストブック 西洋哲学史』、有斐閣、1984 1. 原佑ほか (著)、『西洋哲学史』、東京大学出版会、1955 1. ヒルシュベルガー, (著)・高橋憲一(翻訳)、『西洋哲学史〈2〉中世』、理想社、1970 1. 峰島旭雄 (著)、『概説 西洋哲学史』、ミネルヴァ書房、1989
First posted   2009/04/11
Last updated  2012/02/07
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