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# ロック「統治論」#2(自然法と市民社会) ロックは人間悟性論で書いた認識論などとは異なった、政治哲学や社会哲学といった実践的な領域の仕事も残している。 それは『統治論』の第二論文の中で見ることができる。 ## 自然法 ホッブスなどの前時代の哲学者がそうだったようにロックもまた人間の自然状態を最初に想定し、そこから、政治や法の意義や根拠を探求した。 ホッブスは自然状態における人間は、「万人の万人による闘争」と主張し、自然状態の人間は常に争いの中にあるとした。 これに対し、ロックは自然状態という法や社会が成立する以前であっても、神が授けた「自然法」というものが人間のうちにあるという(倫理客観主義)。 自然状態において人間は皆平等で、自由であるが、自然法によって少なからず制限がある。 それは、自殺の禁止、他人に危害を与えることの禁止である。 また自然法を犯した人間を罰することもできる。 それは、その人から賠償を得るためであり、その人を更生させるためである。 しかし、この処罰する権利(自然権)は事件に関係ない人にもあるため、自然状態においては偏向した判断で罰を加えたり、自然権を自らの利益に悪用したりする人間も現れるだろう。 そのため、自然法をより平等に適用するために、人々は政府を設立し、司法制度を施行する。 ## 所有権 ロックは所有権を自然状態においても人々が持つ基本的な権利に位置づけた。 ここで語られる所有物は、土地や収穫物などありふれたことを意味する。 ではどのように人は土地の権利を得るのだろうか。 それは、ロックによると、土地に労働(耕作、収穫など)を添加し土地の価値を増大させた人間が所有権を獲得するとする。 しかし、自然法は自分で実際に必要な分量以上は持つべきではないと定める。 必要以上の穀物を収穫し、腐らせたら罰せられるべきである。 もともと、食物などは腐りやすいので自然状態の人々は合意によって、腐りにくい金銀などの貨幣を発明し利用するようになった。 しかし、貨幣制度の成立は自然状態の所有の権利獲得の可能性を変えてしまい不平等成立のきっかけになる。 ## 市民社会([英]Civil society) 自然状態から脱し、市民社会(=国家、[英]commonwealth)はどのように生まれるのか。 またそれはどのような利益を人間にもたらすのか。 国家が形成される理由は、生命、自由、所有物の保護の必要性である。 自然状態において、人が罰を与える際、どうしても自己利益を優先し平等な評価を下せない。 そのため、より平等性を獲得するため、国家と法を形成する。 しかし、それと同時に、先の基本的な権利を守るために法を司法機関にゆだねるため、自然法において人を罰する個人的な権利を放棄しなければならない。 それは人々の合意、つまり、協約(compact、社会契約、social contract)によってなされる。 また同意を表明していなくても、国家による保護を受けているものは暗黙のうちに自然権の放棄を同意しているとロックはいう。 ## 反乱・革命 市民社会の目的は生命などの保護という公的利益であるが、政府や支配者が私利私欲や独善のために、その目的を超えてしまう場合がある。 そのようなときロックは市民は反旗を翻しそのような政府を打倒してもよいと言う。 なぜなら、政府は市民の協約・合意によって形成されているが、その信頼が裏切られたらその合意は破棄され市民の自然権が復活するので自然法を犯した支配者を罰することができる。 ロックは「泥棒や海賊に従うことは決して正しいことではありえない」という。 ロックの政治の基本的な理念はフランス啓蒙主義に影響を与えそれがフランス革命の一因になったと言える。 --- ## 参考文献 1. ウォーバートン, N. (著)・船木亨(翻訳)、『入門 哲学の名著』、ナカニシヤ出版、2005
First posted 2006/10/25
Last updated 2008/10/13
Last updated 2008/10/13