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# カント「判断力批判」#3 美的判断の演繹論 ## 演繹論における芸術論 今まで概観した美や崇高は主に自然に対するものである。しかし、これらの感情は自然だけではなく人工物である芸術作品においても抱かれる。カントは芸術美に関しても演繹論において触れる。演繹論は最初に「構想力と悟性の自由な遊び」が趣味判断におけるアプリオリ性であり、趣味判断の普遍妥当性を保証するということを見出す。そして、その後に芸術論を展開する。 ## 美的芸術について 芸術は人間が創造するものであるため自然と対置させられるため、広い意味での芸術・技術(両方共ドイツ語でKunst)に位置づけられる。そして、技術は、まず大きく二つに分けられる。ひとつはある対象を現実のものとするためにする行為である。これは機械的技術(一般的な意味での技術)と呼ばれる。そして、この技術の目的が快であるならばそれは美的美術と呼ばれる。さらに、美的技術が目的とする快の種類に応じて、さらに二つに分けられる。つまり、その快が単なる感覚的な享楽であるならば、それはその芸術は快適な芸術であり、構想力と悟性の自由な遊び(認識様式)から得られる快を目的とするならば、それは美しい芸術である。カントが問題とする芸術は、美的芸術における美しい芸術である。 ### 芸術美に対する自然美の優位性 カントは常に自然美を芸術美よりも優れたものと考えている。なぜなら、自然美は関心を前提としないが、芸術美(人為的な美)は社交性と結びついており、社会や集団の中でのみ精錬されるため、間接的に関心(他人とある対象にたいする満足を共有するという関心?)を伴っている。そしてまた、芸術美は虚栄心に充ちた、我儘勝手で、堕落した感情がつきまといやすいため(例えば、欲情をかきたてる裸婦画)、道徳的関心と結びつかない。これに対して、自然美にはこのような社交性という外的な要因が付随しない。そのため、この美は対象それ自体が快をもたらす純粋に無関心なものである。そのため、これに対する関心は、直接的な関心であるといえる。そして、この直接的な関心をもつことは常に「善い魂」の表れである。 ### 芸術美(Xに対する間接的な関心) Xが社交性と結びついておりそれによって快をもたらすためXに関心を持ちXを求める。 例えば、ドレスで着飾るのは他人に評価されるためという社交的目的と結びついており、ドレスに対する関心はドレスの美それ自体に対する直接的な関心ではない。 ### 自然美(Xに対する直接的な関心) Xそれ自体が快をもたらすためXを求める。 ## 美と道徳 カントは、自然美に関心を有する人は善い道徳的心情への素質があると推定すべき理由がある、という。なぜなら、純粋な趣味判断と道徳的判断の間には類似性があるためである。例えば、自然は美しい産物の点において偶然ではなく合目的性を有しているようにみえる。その目的はいかなる外部においても見出すことはできないが、そのため、その目的を我々自身の内部に求める。そして、自然に見出す合目的性はそれが実際に存在するのであれば、それをもたらした存在は神といった最高原因である。そのため、自然の内に合目的性を見出すことによって宗教的、道徳的な感情を持つのである。そのため、趣味判断は道徳的感情へと移行する。(ここらへんはよく理解できなかった。渡邊氏の解説をそのまま載せる。)自然と道徳(人間・歴史)とが相互に調和し、両者が目的論的に調和宥和し、善が完成するという、道徳的神学的な目的論的世界観を、カントは抱懐していたのである。だからこそ、理性的な善なる意思の所有者たる「善い・美しい魂」は、理念が客観的実在性を持つことに関心をいだき、自然のうちにはその産物が私たちの喜悦と合致し道徳的関心と結びつきうるような痕跡ないし暗示があるはずだと考え、こうして自然美を尊ぶというわけである。だからこそ自然美への関心と道徳的心情は結びつくのであった。[4, p.386]## 天才について 趣味判断の場合には、それは美を受動的に享受するだけであるが、美(すなわち芸術作品)を創造するときには、この受動的な能力ではなにも生み出すことはできない。カントはここにおいて能動的な能力である`天才(Genie)`を想定する。天才は独創性の能力である。従って、自然美と芸術美の対立は、趣味と天才の対立と繋がっている。 ## 美は概念を前提とするかしないか(弁証論) 趣味判断は一定の概念には基づかないが、「不定の概念」には基づくとする。そして、この不定の概念は「美的理念」のことだという。これは、美を「美的理念 美的イデア」の表現とする考えである。この存在論が後のドイツ観念論における美学に決定的な影響をもたらす。 --- ## 参考文献 1. 今道友信 (編集)、『講座 美学 1 美学の歴史』、東京大学出版会、1984 1. 藤田昇吾 (著)、『カント哲学の特性』、晃洋書房、2004 1. ラコスト, J. (著)・阿部成樹(翻訳)、『芸術哲学入門 』、白水社、2002 1. 渡辺二郎 (著)、『芸術の哲学』、筑摩書房、1998
First posted 2010/11/11
Last updated 2010/11/11
Last updated 2010/11/11